tripleR 開発日誌

tripleRのプログラム開発に関するあれこれ

初心者に手動経緯台を勧めるのは間違い

天文を趣味とする人に初心者にオススメの望遠鏡は? と尋ねるとほぼ間違いなく8センチ程度の屈折と手動経緯台の組み合わせを推奨される(らしい?) 屈折には当然賛成(今ならカセグレンでも良いかも)だが、手動経緯台については間違いだと思う。

手動経緯台は上中級者のサブとしてこそ価値があると思う。
手動経緯台を勧める人は、自分が初心者だった頃を忘れているのではないだろうか?

小学校低学年だった頃、星座早見を見ながら星を探したことがある。でも全くダメだった。何故なら実際の空での星座のスケール感が全く掴めていなかったから。
その後、科学館のジュニア天文クラブみたいなものに入って、プラネタリウムで星つなぎを説明してもらい、やっと実際の空で星座を探せるようになった。

これを逆に考えれば、星座のスケール感が掴めていない状態で望遠鏡を手にしても、結局主要惑星(これは形から見えているかどうか分かるから大丈夫)から次のステップには行けない、ということになる。
バックやクランク、縦列駐車等車両感覚のない人が車を運転できないのと同じで、望遠鏡を扱う上の最低限の技能、と言えるのではないか。

手動経緯台を勧めるサイトに、星の位置がわからないと自動導入は使えない(からダメ)みたいに書いてあったが、星の位置がわからないと、結局どんな望遠鏡も使えない(その力を発揮させられない)ということでは?

# 望遠鏡を買う前の段階、ということですね。

その次に問題になるのが、望遠鏡で天体を導入する際のスケール感、だと思う。
幸いにして、望遠鏡で天体を導入したのは、高校で天文部に入ってからだったので、最初の頃は先輩や既に望遠鏡を使っていた同期が導入した天体を見ることが出来た。
どう見えるかの感覚を知っていれば、それ以外の天体に対しても導入することが出来たかどうか判断することができるが、それがなければ、果たして視野中でどのようなサイズで、どのような形で見えるのか分かっていなければ、全く見当違いの場所や倍率で探し続け、結果見つけらなくて、つまらなくて望遠鏡を覗かなくなる、ということになりかねない。

他動導入(身近にいる経験者)がない状況で、自動導入は、頼れる先輩、と言える。

手動導入には他にも初心者にハードルとなる部分が多い。
極地や赤道付近を除き、通常星座は地平線から出てから没するまで角度を変える。星図を見ながら導入するにしても、その感覚が身についていない状況で経緯台を使っての導入はやはり難しいと思える。
(その意味では赤道儀のほうがある意味簡単かもしれない。)

と言うか、確かに星図を頼りに天体を導入する楽しみと言うのが存在するのは認めるが、それを全ての人に強制する必要はあるのだろうか?

天文だけを唯一の趣味として、そこを極めていこうというのならそれもまた良いかもしれない。
でも、そこまで決めていない、若しくは他に趣味のある状況で、毎日夜遅くまで望遠鏡を覗くわけにもいかず、ならば貴重なその時間には、自動導入を頼りに一つでも多くの天体をまずは眺めてみれば良いのではないか。

そこで、気に入った天体やカテゴリが見つかれば、その場所も自然と調べるようになるし、場所がわかった天体ばかり見るのなら、その時にこそ手動経緯台は本領を発揮するのではないか。

できるだけ多くのお店の食べ歩きをしたいのに、最初から店の住所と地図しか渡されないのは間違っているでしょう? 最初は誰かの運転で、若しくはナビを頼りにお店を巡ればよいわけで、お気に入りの店が見つかれば、その頃にはいちいちナビに目的地をセットしたり、誰かに運転を頼んだりすることなく、自分で地図もなく店にたどり着けるようになっているでしょう。
(天体はいくら見てもお腹いっぱいになりませんし。)

プラネタリウムソフトと連携した自動導入もしくは導入アシストは初心者向けではない、というより存在意味すら疑問。
これって、店の地図を渡して、あとは(地図の中で)自分で探してね、というのと同じ。
ナビだったら、店名だけ入れれば後は誘導してくれる。タクシーだったらその店まで連れて行ってくれる。

飛び込み営業みたいに、一軒一軒虱潰しに一般の家を回るんだったら、住宅地図も必要でしょうが、全ての恒星が観望対象になることは(ほぼ確実に)ありません。お店を回るだけだったら、住宅地図なんか不要。略図すら不要。

それじゃ場所が覚わらない、というかもしれないけれど、無理して場所を覚える必要なんてあるんでしょうか。
好きな天体だったら、そのうち星図を見て場所を覚えるだろうし、わざわざ自動導入にプラネタリウムソフトを介在させて手間を増やす意味は全くわからない。
(彗星等特殊な軌道を描く対象を追いかける場合の有用性は当然ながら否定しません。)

地図を見ながら、行きたい場所を探す、それを否定しているわけではありません。
(実際、うちの車、全部ナビは付けていません。)
それは、詳しくない場所に行く機会はそれほど多くないので、せっかくの機会には地図を見ながら、途中の景色を想像しながら現地を訪れたい、という理由であって、もし、毎日違うお得意さんを回らなくてはいけない営業さんだったら、お得意さんのリストを入力したらルートを示してくれるナビがあったら、それを使うでしょう、ということです。

自動導入でも現時点では、その全てでUI(ユーザインタフェース)は初心者向けではありません。

シエナンバ等を入力すれば導入できるが、空を見て(この雲の様子なら)これが見えそうだな、って星座を飛び越してわかる時点で既にだいぶの経験者では?
重星のカタログもおそまつ。そもそも星座毎になっていない時点でやる気がないことが分かる。

プラネタリウムソフト(若しくは星図)と連携させて、ポイントした場所を導入する、って、行く店の名前はわかっているのに、わざわざそれを地図上で示さないとだめ、っていうこと?(これは前述)

もう一つ言うならば、何故自動導入とリンクした初心者向けのガイドブックがないのか、という疑問。

昔は、星座ガイドブックを赤いライトで照らしながら一生懸命導入して解説と見比べたものだが、今だったらスマホの画面で一発のはず。星座神話や天体のまつわる歴史については紙の書籍の方が良いようにも思えるが、対象物の情報に対しては絶対スマホ
重星だったら離角や方位角、星雲星団だったらスケッチ(写真じゃだめ)とかがすぐに参照できれば、見ているのが正しい対象かどうかも簡単にわかる。

自分で使うため、というのが一番の目的なのは事実ですが、そんなガイドブックにつながれば、というのも開発動機には入っています。

そもそもsynscanに(誰も使ってないけど)あれほどきちんとしたapiがドキュメントも伴って公開されているのは何故か。
開発者は、色々なアプリから自動導入を使って欲しかったんだと思います。